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医業税制の焦点と課題〈その4〉措置法26条

経営に役立てる医院の会計と税務 税理士 西村 博史

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【2005年10月】医業税制の焦点と課題〈その4〉
措置法26条

 医業税制の焦点について、最終回は措置法26条の概算経費控除について検討します。

制度創設から50年の歴史

 社会保険診療報酬に対する概算経費率制度(以下措置法26条)は、昭和29年に始めて法制化されています。それまで通達等で執行されていた概算経費率が、社会保険診療報酬体制が未成熟な時期にあって、暫定的措置として法制化された経緯があります。その後、昭和54年には5段階に経費率が改定され、更に平成元年には5000万円超の保険収入に適用されていた52%の経費率が廃止され、現行の4段階の経費率となっています。現在では、歯科と共に、比較的保険収入の割合が低い医科についても適用されています。

会計検査院の検査対象に

 医業以外の業種においては、かつて農業などに概算経費率による白色申告が事実上認められていました。しかし現在の税法実務上では、概算経費率による申告は措置法で法制化されている医業以外には認められなくなっています。政府税調等では、措置法26条のこの規定の見直しを直接言及していませんが、最近会計検査院がこの制度の実態を抜き取り調査したことが注目されています。これによると、「医業等事業所得者における適用率は38.6%であり」「平均概算経費率と平均実際経費率との差は18.3%、平均軽減税額は139万円余」また、平均措置法差額(実際経費と措置法経費率による概算経費との差額)は499万円になると報告しています。検査院のこの報告自体は、あくまで政策の実効性の検証が目的であるとしていますが、「国税収入の落ち込みによる国の財政への影響が懸念されていることから、特別措置を始め税制についての種々の議論が行われている」として、間接的に制度への疑問を投げかけています。

変化する措置法差額

 この措置法26条により是認される概算経費は果たしてどの程度の金額となるのでしょうか。保険診療収入別に概算経費額を計算すると別表のようになります。所得率が28%から33%程度となる実態が判ります。この概算経費と実際経費の差額である措置法差額は、歯科医師会資料によっても措置法改定後の平成2年との比較において概ね70%から80%程度の金額に減少しています。また、減価償却や借入金利息が多額となる開院から10年ないし15年程度は実額経費が措置法経費を超えますが、その後は措置法差額が徐々に増加します。しかし、更に年数を経ると診療報酬全体がピークを超えて減少するため、再度措置法差額が減少するというのが筆者の実感です。即ち、措置法差額は、医院経営の厳しさから年を追って減少すると共に、開院からの年代によっても大きく変動するのです。

消費税論議で制度改変の可能性も

 措置法26条は、創設から50年を経て広く医業の経営安定と社会保険診療の普及に貢献してきた制度です。他方政府は平成19年度を目途に、消費税を含む税制全般の抜本的改革を目論んでいます。財界や特定の分野には恩恵的に財源を配分しながら、医療福祉、国民の生活関連の財政は抑制し、税収不足を消費税などの大衆課税で補填しようとしています。措置法26条は、過去何度かこうした財政危機の時期において改定されている歴史があります。その意味で、今再び措置法26条改変の論議がなされる可能性を否定する事はできない情勢であると言えます。

 医療福祉を充実し国民生活に資する医業経営の発展を図る視点から、制度の維持充実を図る論議が求められていると考えます。

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