奈良県保険医協会

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医業税制の焦点と課題〈その1〉消費税(前編)

経営に役立てる医院の会計と税務 税理士 西村 博史

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【2005年7月】医業税制の焦点と課題〈その1〉
消費税(前編)

 昨年末公表された自民党税制改正大綱では「平成19年度を目途に」「消費税を含む税体系の抜本的改革」を公然と打ち出しています。こうした情勢の中、日本医師会や日本歯科医師会では、来るべき消費税税率アップに対して社会保険診療報酬に「軽減税率」の採用をすべきであると主張しています。これに対して、保険医協会では「消費税ゼロ税率」を主張しています。消費税増税で福祉医療は前進するのか、軽減税率の問題点は何か、更に事業税や措置法26条の問題点について、3回に分けて検討します。

弱者に負担、逆進性の実態

表1 収入階級別消費税負担率

 表1は、収入階級別の消費税負担率です。これによると、生活保護、母子世帯、老人世帯などが多く所属する年収200万円までの世帯は、3.42%の負担(年間約7万円)であるのに対して、1500万円を超える階級では、1.36%の負担(年間約21万円)であり、割合にして約3倍の負担率となっています。政府税制調査会の「少子高齢社会における税制のあり方(平成15年6月17日)」では、「これに関連し、所得に対する逆進性の問題については、消費税という一税目のみを取り上げて議論すべきものではなく、税制全体、さらには社会保障制度等の歳出面を含めた財政全体で判断していくことが必要である」としています。確かに消費税はその構造上逆進性を多少緩和できたとしても、累進性には決してなりえない欠陥税制です。そのために消費税「先進国」のヨーロッパなどでは福祉と医療の拡充でこれを補う積極的な政策を実行しています。しかし、現実の日本で進行しているのは、それとは正反対の福祉医療の切り捨てです。政府の主張は二重に倒錯した論理であると考えます。

深刻化する「損税」問題

 個人は、平成17年から基準期間の課税売上が1000万円を超える場合には、消費税の課税業者となり、併せて簡易課税制度についても改悪が実行されました。消費税施行以来、限界控除などの小規模事業者に認められていた特例も次々廃止されるなど、「益税」解消を大義として中小業者の特例は大幅に縮減されてきたことになります。しかし、消費税は、「転嫁」つまり価格に上乗せできない場合には事業者の所得から支払う「損税」となりますが、その実態については殆ど解明されていません。わずかな政府調査資料によると、今回新たに課税業者となる売上げ3000万円以下の中小業者では、約70%から50%が「完全に転嫁できない」と回答しています。消費税の総額表示がこれに拍車をかけています。「損税」問題は、事業者の負担により切り捨てられています。仮に軽減税率が採用されれば、診療抑制が進行し、医業においても消費税分の「値引き」が発生する可能性は十分にありうるのです。

(8月につづく)

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