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労災保険未加入中の労災事故

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

労災保険未加入中の労災事故
【2012年4月】


 友人の診療所の従業員が診療所内の階段で大けがをしました。治療は医師国保で行ったのですが、その従業員の親から「休業中の給料はどうなっているのでしょうか」と言われているそうです。このようなとき給料はどうするのでしょうか。従業員には国保から傷病手当金は支給されません。

A
 事業所の階段でけがをしたのですから当然業務災害となります。労災保険には、休業補償を請求したのでしょうか。


 それが労災保険に加入していないというのです。その従業員の親は「娘がこんな大けがをしたのに給料を出さないなんてひどい。弁護士に頼んで裁判する」と言っているそうです。

A
 そういうことであればさかのぼって労災保険に加入すればいいのです。


 労災事故になってから労災保険に加入できるのですか。自動車事故に遭ってから自動車保険に加入するようなことができるのですか。

A
 労災保険は強制です。労働者保護の保険ですから強制の度合いがかなり強いのです。


 手続きはどうするのでしょうか。

A
 その事業所を管轄している労働基準監督署へ、賃金台帳など全員の賃金の分かるものを最高2年分持っていけば手続きできます。


 その友人は開業してまだ6カ月です。

A
 それならば6カ月分でいいです。


 手続きは難しいですか。専門家に頼まなくても大丈夫でしょうか。

A
 今は労働基準監督署もかなり親切に教えてくれます。


 労災保険に加入していない事故でさかのぼって加入できるのであれば、事故が起きてから労災保険に加入すればいいということになりませんか。

A
 未加入中の労災事故に関してペナルティーがあります。これを費用徴収といいます。


 どういうことですか。

A
 労働基準監督署が労災保険に加入するよう勧めても加入しない時は、休業補償などの現金給付に関しては100%返還が求められます。事業開始して1年以上たつのに労災保険に加入していない時は40%返還が求められます。


 そうすると私の友人は開業して6カ月ですからペナルティーはないということですね。

A
 そうです。ただこの場合、労災保険だけさかのぼって加入するというわけにはいきません。雇用保険もセットで加入することになります。従って、さかのぼって支払うのは労災保険料と雇用保険料とになります。しかし、治療費は無料になるのですから、たとえ費用徴収があってもさかのぼって労災保険に加入すべきです。


 しかし、障害補償、遺族補償となると莫大になるのではないですか。

A
 それでも一定の限度までです。


 それにしても労災保険に加入していないところもまだありますね。

A
 4月は労働保険の初年度です。働くものを守るためにも、すべての事業所は労災保険に加入していただきたいものです。

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