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労基署が突然来院し、就業規則と36協定の提示を要求してきた

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

労基署が突然来院し、就業規則と36協定の提示を要求してきた
【2018年7月】


 労働基準監督官が突然来て、就業規則と「36(サブロク)協定」(時間外労働に関する協定)の提示を求めてきました。税務署の調査を受けた時も抜き打ちで来ることはありませんでした。労働基準監督官が抜き打ちに調査をすることは法的に問題なのではないでしょうか。


 労働基準監督署が実態を正確に把握するため抜き打ちで調査をすることはあります。むしろ抜き打ちで調査するよう指導されています。労基署の調査を「臨検」と言います。労働基準法でも、事業所等を臨検し「帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者もしくは労働者に対して尋問を行うことができる」となっています。拒否したり、虚偽報告すると、罰則の対象になります。


 私の知り合いの医療機関でこのような調査を受けたところは聞いたことがありません。誰か密告したのでしょうか。


 その可能性もありますが、犯人捜しなどせず、この際この臨検を前向きに受け止め労働環境改善の機会にした方がいいと思います。


 監督官から36協定を提出していないことについてかなり厳しく言われましたが、そんなに重要なものなのでしょうか。


 「働き方改革」の中で厚生労働省はまず36協定の労働基準監督署への届出を徹底させようとしています。労働保険の申告書に「サブロク協定をご存知ですか?」というリーフを同封させるとしています。


 「36協定なしに時間外労働させることは法令上問題がある」と指摘されましたが、どんな問題があるのでしょうか。


 簡単に言いますと、労働時間は1週40時間1日8時間を超えることはできません。労基法上は罰金刑、懲役刑が定められています。ただ、36協定を提出するとこれが犯罪にならないという効果があります。実際、労基署が労基法など労働法違反で送検した事例は厚生労働省のウェブサイトで誰でも見ることができます(http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/dl/170510-01.pdf)。労基法違反で目立つのが、36協定違反です。


 36協定なしに労働させると最悪どのようなことがありますか。


 罰金刑ですから法律上、労働基準監督官は逮捕することもできます。


 労働基準監督官は逮捕できるのですか。


 労働基準監督官は、司法警察官でもありますから逮捕する権限があります。労基署には留置施設がありませんから、警察の留置場を借ります。実際には逮捕することはめったにありませんが、逮捕した経験のある監督官も少数でありますが存在します。


 医療機関には応召義務がありますから患者の都合でなかなか労働時間が守れません。


 そのような理由、つまり医療機関のスタッフの労働環境よりも患者の命が大切という理由で、長時間労働が放置され医療スタッフの健康障害が発生したという認識を労基署は持っていますから、今後医療機関に対する臨検も増加すると思われます。36協定なしに残業させたとして労働者から刑事告発された事業所もあります。

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