奈良県保険医協会

メニュー

労働基準法は守らなければならない法律になった

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

労働基準法は守らなければならない法律になった
【2006年10月】


 今の私の診療所の賃金体系では残業手当相当分は後で賞与として支払っているつもりでした。賞与に残業代が含まれているということではいけないのでしょうか。

A
 確かに今までは、残業代を正確に計算せず「賞与で面倒を見るからいいじゃないか」ということで問題の起きない事業所もありました。しかし、現在は賞与の中に残業代が含まれているという主張は通りません。


 最近、サービス残業とか残業賃金不払いがよく問題になっていますが、法律が変わったのですか。

A
 残業賃金のところは変わっていません。


 それならばなぜこんなにサービス残業問題が大きく取り上げられるようになったのでしょうか。

A
 労働基準監督署の担当者に聞きますと「過労死」問題があるといいます。また長時間労働が精神疾患を大量に発生させているという指摘もあります。


 しかし、私のところでは過労死するほど働かせてはいません。それでもこんなに厳しく労働基準監督署はいうのでしょうか。

A
 これは私の感想ですが、労働基準法が基本的には変わっていないのに、残業代未払い問題がこんなに大きく取り上げられるようになったのは「労働基準法が守らなくて良い法律から守らなければならない法律に変わった」からだと思います。経営者側の労働問題専門の弁護士に聞いても「これまでは、労働組合法に精通していればやってこれたので、労働基準法はあまり勉強してこなかった。」といいます。


 そうすると、私のところでは残業手当をまともに支払うと賞与が今までより少なくなってしまいますが、それでも良いのでしょうか。

A
 そうです、賞与は賃金の一種ですが、定期または臨時に、労働者の勤務成績、会社の業績等に応じて支給されるものでその支給額があらかじめ確定されていないものをいいます。したがって、残業賃金を払ったために業績が下がれば賞与は少なくなるのは当たり前です。これからは、「残業賃金もキチッと計算します。有給休暇も法律どおりとってください。その結果業績が下がれば賞与は少なくなります」という立場でやられたほうが良いと思います。


 私のところには特別手当というものがあって、これも残業代の一部のつもりだったのですが、こういう考え方はまずいのでしょうか。

A
 まずいです。何時間分の残業賃金に相当するか明確になっていない以上誤解を招きます。残業賃金を計算する上で算入する賃金は法的に決まっています。家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、一定の条件の住宅手当、臨時に支払われた賃金、1カ月を超えるごとに支払われる賃金以上の賃金以外はすべて算入せよということになっています。


 皆勤手当も入れなければなりませんか。

A
 当然入れなければなりません。


 そうすると残業賃金を計算する上でこれまでの1カ月あたりの労働時間がかなり少なくなり、残業賃金を計算する上で算入すべき賃金が増えると残業単価がかなり増えます。残業賃金を少なくするために算入すべき賃金を減額することはできますか。

A
 この場合賃金規程(就業規則)の不利益変更になりますから争ったときに問題になりますから従業員の同意を得たほうが良いでしょう。従業員が同意すれば問題ありません。


 勝手に残っている従業員もいます。この場合も残業賃金を支払わなければなりませんか。

A
 適切な指導をしていなければ黙認したことになり、残業手当を支払わなければなりません。いずれにしろこれからはメリハリのつけた仕事をし、従業員の協力も得て時間管理をきちんとしておかないと後でトラブルが発生します。

雇用問題Q&A

さらに過去の記事を表示