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内定取り消しの経営者責任―内定は“婚約”ではなく“結婚”

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

内定取り消しの経営者責任―内定は“婚約”ではなく“結婚”
【2009年2月】


 能力がありそうな看護師が面接に来たので採用しようと思いました。しかし、採用をやめました。

A
 何か問題があったのですか。


 私どもが提示した賃金が少ないといってきたのです。

A
 先方の要求額が高すぎるのですか。


 いえ、無理をすれば支払うことができない額ではありませんが、賃金で職場を選ぶような人は私の診療所経営理念に合わないと思ったからです。それはそうと、高校生・大学生の内定取り消しが問題になっていますが、これは内定取り消しになりますか。

A
 労働契約も契約ですから契約は「申し込み」と「承諾」で成立します。先生のところはまだ先生が申し込んだわけではありません。したがって、労働契約が成立していませんから問題ないと思います。


 そうすると、内定というのは労働契約が成立しているということですか。

A
 そうです。一般的には採用内定は「婚約」ではなく「結婚」なんだといわれています。


 採用内定は結婚ですか。

A
 そうです。少し長ったらしい言い方ですが「始期付き解約権留保付き労働契約」が成立したとみなされます。つまり「健康で無事卒業したら、大麻事件を犯すなどよほどの事情がない限り採用します」と約束したことになりますから、労働契約が成立したとみなされます。


 しかし、労働基準監督署では「たとえ内定を出しても労働基準法上間題はない」といわれました。

A
 労働基準監督署はそういう言い方をするかもしれません。内定者は賃金を受けているわけではなく、労働基準法の適用を受けないからです。しかし、民法上の責任は生じます。


 以前看護学校卒業予定者に内定の決定をし、当人も「卒業したら参ります」といっていたのに内定を辞退してしまいました。この場合は学生に対して損害賠償は出来るのでしょうか。

A
 実際にはほとんど無理です。面接辞退の挨拶に来た学生が会社側担当者にコーヒーをかけられたという話を聞いたことがありますが、本来そんなことはすべきでなく、働きたくない者を無理やり働かせることはできません。労働基準法でも強制労働は罰則が一番重くなっています。


 労働者は内定をいつでも辞退でき、経営者は厳しい規制がある。これは経営者の立場からすると、不公平な感じがします。

A
 弱者保護、労働者保護になっているのでやむを得ないと思います。


 内定取り消しで企業側にやむを得ない事由がないときはどうなるのですか。

A
 内定取り消しが無効になり採用になるという事例はほとんどありませんが、損害賠償ということになります。


 新聞のニュースでも、マンション分譲大手不動産会社が内定取り消しをして1人当たり100万円支払うという話がありましたが、内定取り消しの損害賠償の相場というものはあるのでしょうか。

A
 解雇と同じなら1カ月分の予告手当でいいだろうという意見もありますが、これでは誠意がないというべきです。これまでの最高和解金は230万円ほどです。しかし、労働側弁護士は1年分の給料300万円+慰謝料100万円の合計400万円と主張しています。


 確かに人生の巣立ちのときに人生を狂わせられるわけだから、そういう言い方も理解できます。それにしても内定は慎重にしなければなりませんね。

A
 そうですね。採用する側は大勢の中の1人かもしれませんが、学生にとってはかけがえのない人生が大きく狂うわけですから。

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