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働き方法成立後、中小医療機関はどんな対応が必要か

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

働き方法成立後、中小医療機関はどんな対応が必要か
【2018年9月】


 働き方改革関連法が成立しました。中小の医療機関にはどんな影響が考えられますか。


 今回最大の争点となった「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」は、政府の説明では「時間ではなく成果で評価される働き方の自由度を高める」ことを目的とし、①事業主は労働時間の把握義務がなく残業代、深夜労働、休日労働に対する割増賃金を支払う必要がない②4週で4日以上、年間104日以上の休日取得を義務付ける③年収1075万円以上の労働者が対象――などの条件がある制度です。当面は小規模の医療機関には影響ないと思います。


 医師を雇用すれば軽く1075万円を超えますから、関係があるのではないでしょうか。


 医療行為は「時間に関係なく成果で評価」する行為とは言えないので、「高プロ」の対象にはなりません。これは厚生労働省の委員会でも明らかにしています。しかも、一般労働者に適用される労働時間規制は当面医師、運送業、建設業には猶予期間が設けられ適用はありません。従って医師の長時間もこれまで通り過労死ラインと言われている労働時間規制の対象にもなりません。


 そもそもなぜ「働き方改革」なのですか。


 政府によると背景には少子高齢化社会があるということです。このままでは労働力人口の減少、人手不足が深刻になると言います。2065年は現在1億2000万人いるわが国の人口は9000万人を割り込み、65歳以上人口の総人口に占める高齢化率が38%になると推計されます。女性・高齢者も活躍できる「1億総活躍社会」を目指す必要があり、そのための改革というわけです。「高プロ」は過労死家族の会も反対しており、政府はそれだけでは国民の支持が得られないと判断したのでしょう。8本の労働法関連の法律を同時に審議する前代未聞の事態になりました。これによって、中小医療機関でも見直しが必要になったのは、長時間労働の是正と同一労働同一賃金です。
 長時間労働の是正に関しては「36協定」のチェックが厳しくなります。法定時間外労働は労働基準法第32条で違反者は「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」となっていますが、同法36条による協定を結べばこれが犯罪になりません。ところが4割近い事業所がこの協定を結んでいません。最近36協定違反で労働基準監督署が送検する事例が増えています。これまではこの協定を結べばいくらでも残業させることができましたが、今後は、時間外労働は月100時間未満が限度となります。


 同一労働同一賃金はどうですか。


 医療機関は女性パートが多いので注意が必要です。基本給は比べるのが難しいのですぐには表面化しないと思いますが手当は最高裁判例もあり見直しが必要です。無事故手当、通勤手当、皆勤手当などは正社員に支払ってパートなどの非正規労働者に支払わないのは是正が要求されます。家族手当、賞与、定期昇給、退職金は判断が分かれますが人手不足の折、見直しが必要になると思います。

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