奈良県保険医協会

メニュー

働き方改革の「同一労働同一賃金」での医療機関の対応

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

働き方改革の「同一労働同一賃金」での医療機関の対応
【2018年5月】


 「働き方改革」が話題になっています。当院のような小規模の医療機関でも対応に注意する点があるでしょうか。


 働き方改革について政府は9項目挙げていますが主なところは2点です。つまり「同一労働同一賃金」の導入と長時間労働の是正です。


 当院には、よく言われている月80時間以上にもなる残業はありません。ただ賃金は「同一労働同一賃金」などということを考えずに決めています。


 どうやって賃金を決めていますか。


 そういわれると困りますが中途採用がほとんどなので経験や現在所属している職員とのバランスで決めています。パート職員の場合はハローワークの求人情報を参考にしています。


 能力を評価して決めないのですか。


 能力は私の胸の内では評価しますが、それを賃金に反映することはありませんね。「同一労働同一賃金」ということになると客観的な評価をしなければなりませんか。


 今度の法案でもそこまでは求めてはいませんが、評価制度を作ると助成金が支給される場合があります。ただ、「同一労働同一賃金」など関係なく賃金にストレートに反映しなくても、評価はした方がいいです。ただし正確な評価にこだわると評価者としても重荷になりますから、私の感想としては、評価基準はできるだけ絞った方がいいと思います。
 もともと「同一労働同一賃金」が課題になったのは日本の労働者の約40%が非正規雇用になってしまい、非正規社員と正社員の格差がヨーロッパと比べあまりにも激しいからです。したがってパート社員など非正規雇用と正社員の格差についてのトラブルは増えると思います。


 非正規社員の賃金は世間相場で決まってくるのではないですか。長く勤めた正社員と勤務期間が短い非正規社員とでは時間単価が違っても仕方がないのではないですか。


 長期間勤めた非正規社員でも、正規と比べてかなり格差がある人がいますから正規と非正規の問題は簡単ではありません。しかし、今争われているのは手当の問題です。住宅手当、家族手当、精勤手当、賞与、通勤手当、役職手当などはパートなどの非正規社員には支給されていないところが多いのです。


 そうするとパートの方にもこれまで支給していなかった住宅手当や家族手当を支給しなければいけませんか。


 いいえ、これまでの裁判例で住宅手当を支払わなくても「不合理でない」とされ非正規社員に支払わないことが認められた事例もあります。分かりにくいのは差別的取り扱いが「不合理と認められるものではあってはならない」という判断基準です。差別的でも、不合理でなければいいのです。それを誰が判断するのかというと裁判所です。立証責任がある労働者にとって心理的なハードルはありますが、「同一労働同一賃金」となれば労働者からの訴えは増えると思います。


 まだ明確な基準はないのですか。


 一応はありますが、厚労省などの示す事例はかなり極端なものばかりであまり参考になりません。争いを避ける上で経営者として大切なことは、なぜ正社員にはこの手当があってパートにはないのかを説明ができることです。

雇用問題Q&A

さらに過去の記事を表示