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事務長をしている弟が残業代請求で労働基準監督署へ駆け込む

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

事務長をしている弟が残業代請求で労働基準監督署へ駆け込む
【2018年10月】


 従業員3名のクリニックです。弟に事務長的な仕事をしてもらっていました。最近休みが続くのでおかしいなと思っていたら、突然労働基準監督官の訪問を受けました。賃金台帳、出勤簿、労働者名簿を見せろというのです。私も全く予想していませんでしたが私の弟が残業手当を受け取っていないとして労基署へ駆け込んだのです。労働基準監督官は何の前触れもなしに突然訪問していいのでしょうか。


 はい、実態を調査するため突然臨検に入ることも認められています。国際労働機関(ILO)の国際労働条約でも監督官は「昼夜いつでも、自由に且つ予告なしに立ち入ることができること」になっています。


 診療中でもあり、患者さんに迷惑をかけるので別の日にしてほしいと頼んだところ、了解してくれ私が後日労基署へ行くことになりました。今回は話し合いでなんとかなりましたが、そもそも診療中に突然来られても困ります。


 立ち入りや調査を拒んだりした者は労働基準法で処罰される場合もあります。


 事務長は私の弟で、共同経営者のようなものです。親族にも労働基準法が適用されるのでしょうか。


 労働基準法は同居の親族のみの事業所には適用されません。先生の弟さんは同居ですか。


 別の家に暮らしています。


 それに他の従業員もおられますから先生のクリニックは間違いなく労働基準法の適用事業所です。


 共同経営者の場合はどうですか。


 その点も監督官は調べると思います。しかし、共同経営者となると先生と対等な立場で経営に参加する者でなければなりませんからなかなか認められません。弟さんの出勤簿はどうなっていますか。


 社会保険に加入し所得税も源泉していましたから賃金台帳はありますが、出勤簿はありません。休んでも給料を減らしたことはありませんでした。ただ弟は2年ほど前から勤務時間について手帳にメモを取っていたようです。


 そうなると残業代も計算できますから最高2年間遡って残業代を請求されます。


 弟は何の資格もなく、どこへ行っても勤まらず、仕方がないので私が面倒を見ていたのです。それが残業代を請求するなどあきれてしまいます。給料も能力に比べてかなりの額を支払っていたつもりです。


 そうすると、その金額を基準に残業代は計算されます。


 残業代も含めて支払っていたつもりですけれど。


 最近は基本給に含まれるなどの理由は一切通りません。固定残業代なら明確に基本給とは分離され何時間分でいくらか、しかもその決めた時間を超えた場合は差額を支払うとなっていなければ固定残業代とは認められません。


 ひどい話です。何の恨みがあってこのようなことをしたのか分かりません。


 弟さんの心の底は分かりませんが、意外なことで不満が膨らんだかもしれません。縁故で採用することはいいこともありますが、トラブルが起きると紹介してくれた人との友人関係が壊れることもあるので、慎重を期する必要があります。

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