奈良県保険医協会

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九条加憲は平和理念を変質させる―日本国憲法を守ろう

 日本国憲法が公布され、今年で73年になる。2年前の憲法記念日、安倍首相は憲法改正について「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と語った。憲法9条の1項、2項を維持したまま、第3項に自衛隊を明記する改憲を目指すという。憲法改正の手順から言えば、まず国会議員の3分の2以上の賛意を得て、国会で憲法改正の発議をしなければならない。憲法改正のねらいは、国民の自助自立、愛国心の植え付け、軍隊を持つ“普通の国”にするところにある。2012年に自民党が憲法改正草案を作った当初には「国防軍」が明記されていたがより改憲のハードルを下げるために3項に自衛隊の明記【加憲】という妥協案に至ったと考えられる。

 自衛隊が憲法に書き込まれることにより、現在の自衛隊の権限がすべて「合憲」とされ、安保法(戦争法)はすべて合憲とされてしまう。さらに自衛隊が「自衛権」を行使すると条文に書かれれば、自衛権には集団的自衛権と個別的自衛権が含まれるため、無制限な集団的自衛権の行使が可能になる。もし国際貢献のために活動すると書き込まれれば、国連のPKO(平和維持活動)などだけでなく、米国と共に多国籍軍に参加し武力行使することも可能になる。自衛隊が憲法に明記されれば、武力によらない平和の理念は本質的に変質し、2項の戦力不保持規定が残ったとしても自衛隊は一人歩きすることになるであろう。

政府の方針と改憲問題
 政府予算の中で社会保障を削り貧困格差を増大させる一方で防衛費は毎年吊り上がり、2019年度予算では5兆4000億円を計上している。自衛隊が海外展開することで利益を確保できる日本のグローバル企業と自衛隊を指揮下に置きたい米軍の要望に応えて現政権は集団的自衛権ならびに安保法制(戦争法案10本)を強引に閣議決定、法制化したが、現実では2016年11月に強行した国連南スーダンPKO派遣は早々に撤退を余儀なくされた。「日報隠し」問題が憲法違反であったからである。現政権は現在の法整備だけでは自衛隊を軍として派遣することは出来ないと考え、自衛隊(現在は行政管轄)を憲法に明文化させるため、国民投票による憲法改正を目指して参院選に臨もうとしている。

 しかし、日本に軍という存在が明示される影響は計り知れず、軍を優先させる政策をとる限りこれまでの流れから考えて社会保障の削減はさらに増大し国民医療は荒廃することは必定である。国民の命を守り医療を担う保険医こそ、憲法改正の流れに抗し、9条加憲は阻止していかなければならないと考える。

【奈良保険医新聞第440号(2019年5月15日発行)より】

主張

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