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スタッフを注意したら解雇と年休の買い取りを要求された

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

スタッフを注意したら解雇と年休の買い取りを要求された
【2020年11月】


 以前この欄で紹介されていた「業務改善等指導書」(イエローカード)で、従業員に3回注意したところ「退職します」と言ってきました。その際、退職理由を解雇にして、未消化の有給15日分を買い取ってくれと言ってきました。要求を聞かなければいけないのでしょうか。


 まず、この従業員に対して先生の方から「解雇にする」とか「すぐに辞めてくれ」とか言いましたか。


 そんなことは言っていません。ただ、あまりにも時間にだらしないし、ミスも多いので「うちの診療所には合わない。よその職場で能力を発揮したら」というようなことは言いました。


 それなら解雇にはなりません。なぜ、解雇にしてくれと言ってきたのか分かりますか。


 なんでも、解雇だと雇用保険の失業給付がすぐに受けられると、友人から聞いたらしいのです。


 雇用保険の失業手当は、自己都合退職だと3ヵ月間の給付制限期間があります。しかも、失業手当の受給期間が倒産や解雇に比べて短くなります。本人が失業手当の心配をしているのであれば「勧奨退職」にしたらいかがでしょうか。こうすればすぐに失業給付が受けられます。


 解雇と違うのですか。


 解雇は本人の意思にかかわらず辞めなさいというものです。一方、退職勧奨は「あなたは辞めても辞めなくてもどちらでもいいですが、できたら辞めていただけないか」というものです。従業員が「分かりました。退職します」と言ってくれれば、退職合意で勧奨退職となります。「よその職場で能力を発揮したら」と言ったことは退職勧奨とも取れます。
 この際大切なことは、必ず退職合意書か退職届を貰うことです。後のトラブルを避けるためには退職合意書がいいと思います。後になって「事実上の解雇だ」などと訴えられるときに備えるためです。
 また、退職合意書と業務改善等指導書(イエローカード)の書式は、曽我社会保険労務士事務所のホームページからダウンロードできます(https://www.sogaoffice.jp/format/)。この退職合意書の書式では、「合意退職、退職日と退職日までの処遇等」「退職日の繰り上げ」「退職金等の支払」「誠実義務」「守秘義務」「清算条項」の6条からなっています。
 ただ、雇用主にとって注意が必要なのは、解雇や退職勧奨で従業員が退職した場合、雇用保険関係の助成金が退職の前後6ヵ月間受給できなくなり、雇用調整助成金も80%に減額されます。


 年次有給休暇も買い取らなければいけませんか。そもそも、有給を買い取るのは違法ではありませんか。


 権利のある有給を買い取ることは違法です。しかし、有給は勤務しているからこそ権利があります。退職したら有給の権利がありません。従って有給を買い取る義務は経営者にありません。しかし、権利のない有給を恩恵的に買い取ることは違法ではないとされています。私は解雇をめぐるトラブルを避けるためにも買い取ってもいいと思います。

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