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どうなるパートの厚生年金適用拡大

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

どうなるパートの厚生年金適用拡大
【2012年7月】


 パートタイマーにも社会保険を適用すると政府が言っていますが、どういうことですか。

A
 現在、雇用保険は「31日以上雇用される見込みがあり、1週20時間以上働く人」は加入しなければなりません。しかし、社会保険(健康保険・厚生年金)は通常の労働者の労働時間にしておおむね4分の3未満であれば加入しないことになっています。この社会保険に加入していないパートを雇用保険と同じように社会保険に加入させるというものです。


 そうすると私の診療所で働いている雇用保険にしか加入していないパートも社会保険に入れるということですか。

A
 いえ、政府はとりあえず大企業から適用させようとしています。政府の方針をまとめると次の通りです。(1)施行予定は平成28年4月(2)所定労働時間週20時間以上(3)月額賃金7.8万円以上(年収94万円以上)(4)勤務期間1年以上(5)学生は適用除外(6)適用企業規模従業員501人以上――。


 そうすると、当面は今まで通りでいいわけですね。

A
 そうです。しかし、これをきっかけにパート労働者への処遇を検討しておく必要があります。


 この制度が適用されると、社会保険に入れたくない場合、パートの労働時間を週20時間未満にしなければならないということになります。週20時間働いても月収が78,000円未満にすると賃金を相当下げなければなりません。最低賃金に近くなってしまいます。

A
 それでパートの方が了解してくれればいいのですが、それは大変なことだと思います。労働時間を短くすると雇用保険の適用もなくなります。収入が下がるだけでなく、雇用保障を奪うことになります。


 それにしても、パートを社会保険に加入させると社会保険料負担が大変です。

A
 特に最近は健康保険料の値上がりが激しく、厚生年金も毎年値上げすることが決まっていますからね。


 事業者にとってもパートにとってもいい方法はないのですか。

A
 基本的にはパートに社会保険の適用を拡大することはいいことだと思います。しかし、パートを社会保険に加入させると経営を圧迫するという制度に問題があると思います。社会保険ですから、中小企業事業主の保険料負担を軽減するために政府はお金をもっと出していいと思います。


 ところでパートの方が社会保険に加入するメリットは何ですか。

A
 健康保険についていえば何と言っても現金給付があるということです。病気で働けないとき、給料(標準報酬)の3分の2が傷病手当金として支給されます。年金についても老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金が支給され、障害年金についても国民年金ですと該当しない障害の程度が軽い3級でも障害年金が支給されます。


 健康保険の扶養の範囲で働いていて国民年金の第3号被保険者になっている人は負担が増えますね。

A
 確かに今まで国民年金の保険料を独自には負担していなかった「サラリーマンの妻」が保険料を負担するわけですから負損が増えるといえます。しかし、健康保険の傷病手当金がありますし、年金も老齢基礎年金よりもかなり増えますから全体で考えるとパートにはかなり有利になります。

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