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【第52回】成果主義賃金制度は必要か

開業医の雇用管理ワンポイント 社会保険労務士 桂好志郎(桂労務社会保険総合事務所所長)

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【第52回】成果主義賃金制度は必要か

 「新しい賃金制度の学習会があるので参加したが…」、元気のない院長先生の声。内容を聞くと、歯科医院に対する成果主義賃金制度導入の提案でした。

 開業して間もない院長先生や経営難から抜け出せないで苦労している院長先生が、「新しい」に救いを求めて参加したもののすっきりしないで苦悩している姿に出会うことがあります。

◇現場を一番よく知っているのは、院長先生です

 財界が、成果主義を人事・賃金政策の中心に位置づけたのは、1995年の日経連の『新時代の「日本的経営」』の提起によってでしたが、すでに1000人以上の規模の大企業では約8割強、規模計でも過半数の企業が導入するようになっており、決して新しい制度ではありません。

 中小企業にも次第に広がってきていますが、その矛盾、欠陥も鮮明になってきています。例えば導入した企業側さえ「評価者によって評価がばらつく」「成果の測定が困難な部署がある」と、評価の困難さを認めざるをえないと指摘しています。

【医療現場に合うか】

 成果主義賃金は、職員のそれぞれの業務の成果が評価されなければ機能しません。何を基準にしてどう査定評価するのかが重要であり、そこが成果主義運用の要になります。しかし、セールスなどのように、仕事の成果が、数量的に測られるようなもの以外は、客観的に測るのが困難ではないでしょうか。例えば医療現場に求められる業務遂行に必要な協調性や責任感、やる気などは、院長の主観性や恣意性に左右され、公平・公正に評価することができるでしょうか。

 結果として、職員の不満を広げ、業務遂行のチームワークを弱める大きな要因になるように思います。

【頑張れば報われる、どんどん昇給してあげたい気持ちがあるが】

 職員の側から見ると、「相対評価」でなく、その達成がそのまま評価に結びつく「絶対評価」でなければ納得できないでしょう。「全職員が頑張れば、全員の賃金をあげる」、ただし、それが毎年続くと、毎年連続して行うことは可能でしょうか。人件費の総額に限度があるのが現実です。一次評価は「絶対評価」しても、人件費の総枠のために、最終評価は、「相対評価」で行わざるを得ないのが現実です。

◇小規模医院で複雑な人事考課は必要か

 企業では人事考課項目の整理や再検討、考課者訓練、第一次評価、第二次評価等々に相当の時間を関係者が費やしていることをよく聞くことがあります。

 ある会社の担当者からは、役員会への提案期日と評価内容を秘密にするために、ホテルで泊まり込み作業を行うが、最終的に社長の鶴の声でその内容が生かされないとか、導入当初に考課者訓練を受けた職員は人事異動でいなくなり、その後は、時間や費用のこともあり、形骸化している会社などの例は聞きますが、うまく機能している会社の例はほとんど聞くことはありません。

 小規模医院の場合、同じ施設内で毎日業務を行っているのですから、直接認識できますし、少し側面をかえて主任などから意見を聞けば、複雑な人事考課の方法は必要ないのでないかと思います。

 小規模な医院に求められているのはチームワークです。その障害になるようなやり方は結果としてマイナスではないでしょうか。

開業医の雇用管理ワンポイント

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