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【第46回】残業手当の定額払はいけないのですか?

開業医の雇用管理ワンポイント 社会保険労務士 桂好志郎(桂労務社会保険総合事務所所長)

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【第46回】残業手当の定額払はいけないのですか?


 一人一人計算するのが面倒なので、残業手当は全職員一律1万円の定額を支払っています。しかし、実際の残業時間は、月によって異なりますし、1時間あたりの賃金額も職員ごとに違います。このように定額で残業手当を支払うことは問題ありませんか?

◇そのポイントは

 残業手当を定額で支払うこと自体が必ずしも違法というわけではありません。

 支払額が法定の計算による金額を下回らない場合は法違反ではありませんが、下回る場合は差額の支払が必要になります。その月の残業時間が定額残業手当に対応する時間を超えた場合には、その超えた時間分の割増賃金を別途支払う必要があります。

 また定額払いのうち割増賃金部分がいくらなのかを就業規則に定める必要があります。

例(職務手当)
第○○条
職務手当は月20時間の時間外労働に対する割増賃金として支給する。ただし、法定の割増賃金が職務手当を上回る場合はその差額を支給する。


◇裁判例では

 残業手当を定額払とするために最低限必要な条件として、次のような点を挙げているものがあります。

  1. 定額払いであっても毎日の労働時間数は把握しておかなければならないこと、把握した時間外労働時間数等が定額残業手当に見合う時間数を超えた場合には、超えた時間数分の時間外割増賃金を追加して支払う必要があること

  2. 定額残業手当に見合う時間数を超えなかった場合にも全額(定額)を支払うこと(「関西ソニー販売事件」昭63・10・26大阪地裁判決)

    「通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することのできるものでなければならず、できないものであった」場合には無効となる。(「高知県観光事件」平6・6・13最高裁2小判決)

◇定額払は便利、しかし労働時間の適正な把握をしなくなっていたことに気がつく

 就業規則作成の依頼をうけた医院は、残業手当を計算するのが大変なので、労働時間を適正に把握するのでなく、全員一律支給を行っていました。就業規則作成、周知を契機に労働時間にもっと関心を持ち、業務の効率、職員の配置等の見直しを提案しました。

 それから数ヶ月後の院長先生からのメールを紹介します。

「残業ですが、皆が意識的に残業は多くしない、早く帰るということを心がけているようで」「それと、スタッフがどういう時間働いているのかがわかり良かったと、うちの奥さん(給与計算をしている)が言っています。」「チーフですが、個人的にタイムカードの件(他の職員に依頼して不正打刻を行っていた)を話し、反省文を書かせたところ自分から退職願をもってきました。職場に明るさが戻ってきています。新しいチーフはみんなで決めさせました。皆やる気が充分です。以上簡単ですがその後の様子のご報告です。」

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